起毛について

起毛の3要素

起毛の3要素は以下の3つです。

  • 布(対象素材)
  • 起毛機(起毛針布)
  • 起毛方法(起毛職人の技)

起毛技術者は目標とする起毛結果に対して与えられた布(素材)およびその処理が適しているかどうか、手持ちの起毛機およびその性能がこの起毛に適しているか、また起毛方法が誤っていないかどうかなどを判断する能力を有していることが必要です。

針布の善悪、布にあてる強弱は品質に与える影響が著しく、特に素材にあわせた起毛機の活用方法と針布の用い方が品質を大きく左右するといっても過言ではありません。

織物は規格がありますが、起毛には規格がありません。手で触ってみて「良い・悪い」を感触で決めることが多く、起毛職人の勘・経験・技能に頼る部分が多いのです。

起毛効果に影響を及ぼす因子

全自動式起毛機ができない原因は、起毛結果に及ぼす因子があまりにも多いからです。

1.原料関係

繊維の種類、単組織のデータ、繊維長、けん縮性、糸の紡績方法、番手、より数、合糸数

2.布関係

織物、メリヤス、不織布あるいはタフト製品、密度、組織(平織、斜丈織、朱子織、たて編、よこ編)、使用織機

3.準備工程

精錬漂白(特に残脂量)、染料(種類と濃度)、染色助剤(緩染剤の種類と量、酸・アルカリの残量など)、乾燥(シリング、ホットエアーテンター等、布張力、残留水分など)平滑剤の付与

4.針布

針の材質(鋼・真鍮・ステンレス)、太さ、腰下長、形状(丸・角)、針密度、針の植え方、針の鋭鈍と研磨方法、基布の質と構造(フェルト・ゴム・アメゴム・厚さ・裏張りの有無 等)

5.起毛機

形式(英式・フランス式・ドイツ式  等々)、針布ロールの本数および太さ、針布ロールのベルト車、または歯車の直径、伝動方式(Vベルト・平ベルト・歯車など)、針布の巻き方(巻き方向、巻き張力、接着の有無)、P・RとC・P・Rの関係、伝動ベルトの性質(新旧・滑り止めの使用など)

6.起毛機の運転

起毛室の温度と湿度、乾燥シリンダの動き、ドラムの回転数、針と布との相対速度、起毛回数、P・RとC・P・Rの相対速度、布速度

7.起毛後の仕上げ

水通し乾燥、のり付け、樹脂加工、剪毛、幅出し、カレンダ、縮充、蒸じゅう など

以上のように起毛結果に影響を及ぼす因子が多すぎることから、マニュアル通りには設定できず、起毛機の全自動化が進まないのが現状です。

技術者(起毛職人)が絶えず風合いを確かめながら(聴覚・視覚・触覚)作業を進めます。
この3覚が研ぎ澄まされた起毛職人の元で行われる起毛が最良の起毛品の誕生となります。
ただし、起毛職人も日々勉強で、多種多様化、小ロット化の時代にあった感覚、知識、そして先見性を持ち合わせて消費者ニーズを感じ、調査・情報収集も非常に重視すべき点であり、新商品開発にむけて精進あるのみです。

有限会社 島本化繊起毛工場
代表取締役 島本和寛